>Seamore
昨日に引き続いて、あたしは校庭のベンチにいた。まぁミルのヤツに押し切られたってのが実際だけどね。
けどそれほど悪くもない。けっこうあったかいんだ、ここは。
「ねぇねぇシーモア、それで今日ってば、どっか行くの?」
「そのつもりだよ」
昨日ルーフェイアが言ってたのはホントだった。朝イチで外出禁止の解除が、部屋づたいに回ってきたんだ。
しかも今日は休日で授業がないから、学内は町へ出ようとする生徒でてんやわんやだった。あたしみたいにのんびり日向ぼっこしてるなんぞ、マヌケもいいとこだ。
「早くしないと、船に乗り遅れちまうね」
「えー、でも船ってば、午後にならないと出ないって」
「そうなのかい?」
どうもこの辺の細かい連絡が、最近はちゃんと回ってこなくて困る。
「うん、そうだよー。だからここで、日向ぼっこなんだもん」
「……あんたにそこまで考える頭があるとは、思わなかったよ」
「ひっどーい!
――あ、イマドだ」
毎度のことながら、ミルの言動は唐突なことばっかだ。
もっともウソは言ってないから、それだけでもマシとしとかなくちゃいけないだろうけど。
「シーモア、ルーフェイアのヤツ見かけなかったか?」
同じクラスのイマドが、声をかけてくる。
ダーティーブロンド。琥珀色の瞳。
気さくな感じの好青年に見える。
――ただあくまでも見た目だけなんだよね、コイツは。
なんせこの野郎、いざとなったら手段を選ばない。万が一ルーフェイアでも絡もうもんなら、マジ見境なくなるし。
「ルーフェイアは今日は見てないね。さっき部屋へ寄った時も空っぽだったよ」
「そうか……」
「デートでもするつもりだったのかい?」
突っ込んでみる。
「ばーか。あいつにデートなんて高尚なもん、分かるわけねぇだろ」
「たしかに」
ルーフェイアの鈍さときたら天下一品だ。人のことはすぐ気が付くくせに、自分のこととなると、女子だってことも理解してるかかなり怪しい。
「しっかしあんたも、よく我慢してつきあってるよ」
「しゃぁねぇだろ。つーか、ガマンとかしてねーし」
「そりゃまた。でもアンタにはそうかもね」
激ニブのところを除きゃ、あの子はえらくいい子だ。優しくて繊細で泣き虫で、思わずかばいたくなる。その上素直で疑うことを知らないんだから、イマドが惚れたのも分かろうってもんだ。
「けどなんだって、あの子探してんのさ?」
なんとなく気になって訊いてみる。
「別に大したことじゃねぇんだけどよ、メシ作るから教えようかと思って」
「……はい?」
ウソみたいな答えに思わず訊き返した。
「それってさぁ、なんかすっごいヘン〜」
ミルがさらっと、ひどいことを言ってのける。
「そうは思うけどよ、なにせこないだ、泣きべそかきながら鍋と格闘しやがってさ。
あれじゃどうしようもねぇって」
これにはミルと爆笑。
「ルーフェイア、らしすぎ〜♪」
「あの子、才能ぜんぶ戦闘に取られちまったんじゃないのかい?」
ルーフェイアの料理音痴――というより食べ物全般に対して無知――は、常識を遥かに超えてる。昔ローストビーフを見て「ローストなのに生だ」って言い出したときなんかは、さすがにみんなで硬直したもんだ。
昨日のケーキ作りの時も、けっきょくやったのは材料を量るのと泡立てるくらいで、あとはひたすら見てただけだったりする。
ただそれを言うなら、イマドもイマドだ。こっちは下手な主婦など遥かに上回って、家事全般が上手いってんだから。
二人ともいったいどういう育ち方をしたのか、いまだに不思議でしょうがない。
そこへひょいっという感じで、ナティエスが顔を出した。
「あれ、どしたの、イマド。ルーフェといっしょじゃないなんて珍しいね」
「いつも一緒にいるの、お前らの方だろ?」
このナティエスも食わせ物だ。大人しそうな外見に似合わず、スリは上手いわ毒付きの苦無≠振るうわ、凶悪なことこの上ない。
「ナティ、あんたルーフェイアどっかで見かけなかったかい?」
「え?
あ、そういえば寮の渡り廊下でちらっと見たの、ルーフェとシルファ先輩だったかも」
人差し指をあごに当てて考えながら、彼女が答える。
「おや。んじゃ二人して、タシュア先輩のとこでも行ったのかね?」
「それだとルーフェ、また泣かされそうかも」
「おもいっきりアリだねぇ」
あのタシュア先輩ときたら毒舌で知られまくってるってのに、なんでかルーフェイアは懐いてた。それも毎度のように泣かされてるのにくっついて歩くんだから、もう立派としか言いようがない。
「まぁいいや。どうせ居場所なんてすぐ分かるしな」
探してたはずなのに、あっさりそんなことをイマドが言った。
そして一瞬、視線が宙をさまよう。
「あぁ、あそこか」
次の瞬間にはもう、どこにいるか分かっちまったらしい。
「いつもながらよく分かるね、あんた」
「まぁな」
イマドは必ず、ルーフェイアの居場所を言い当てる。
「やっぱそれって、愛の力〜♪」
ミルが得意げに胸を張ってバカなことを言った。
――それで世の中片付くんだったら、苦労ないっての。
「ったく、ない胸張ってなにバカ言ってんのさ」
「ぶ〜〜☆ なくないもん!」
ほっぺたを膨らませて怒るとこなんて、この子ときたらまるで六歳児だ。ホント、手がかかるったらありゃしない。
とりあえず小突いて黙らせといて、イマドに尋ねた。
「どこにいたんだい?」
「―――」
けど、答えない。
そして妙に厳しい顔になる。
「お前らさ、いったん寮へ戻って、メインの武器出したほうがいいぜ」
「どういうことさ?」
「それって、どういうこと?」
ナティエスと言葉がかぶる。
同じことをミルも思ったんだろう、きゃいきゃいと騒ぎたてた。
「どしてどして? 学院内っていちおう、武器の使用って禁止だよ〜?」
「たぶん……ンなこと言ってらんなくなる。
――ああ、もう見えるか」
「?」
イマドが彼方を指差した。
つられて視線をやると、たしかに大きなものがいくつも海に浮かんでる。
「あ、船だ〜♪」
こういうときもどっか抜けてるミルが、嬉しそうに言ってのけた。
ただあたしはそこまで、能天気には構えらんない。なんせ見えてるのったら艦砲を備えた編隊だ。胡散臭いことこの上ない。
「ねぇ、誰かに知らせた方が良くないかな?」
不安げにナティエスが言う。
「いや、必要ないと思うね。あたしらが気付くんだ、先輩たちなんてとうの昔に知ってるだろうさ」
案の定、そこへ緊急事態を知らせる鐘が鳴った。
「――やだ、もしかして全部鳴ってる?」
「みたいだね」
東西南北と中央、五つ全部がいっせいに鳴り響いてる。つまり、「総員戦闘配備」だ。
合わせて通話石――共鳴現象を利用して互いに話せる特殊な石――を通して指示がでた。
『これから所属不明の船団および部隊と、戦闘に入ると予測される。よってA編成にて迎え撃つ。総員、戦闘配置に付け』
「やっぱそう来るか……」
ため息まじりにイマドが言う。
「あんたの言うとおり、部屋へ戻って装備を出した方がよさそうだね」
「わ〜、ひっさしぶりに実弾撃てる〜♪」
ミル、あんたどこまでズレてんだい。
ただこういうことは、たまーにあると先輩から聞いてた。
次々と優秀な兵士を送り出してるこの学院は、傭兵学校の老舗中の老舗だ。そのせいか、時々この学院を逆恨みしたり目の敵にしたりで、攻めてくるのがいるっていう。
しかも協定でMesはどこも原則、所属国が感知しない。だから内陸部ならまだともかく、うちみたいに陸から離れた島なうえに相手が所属不明とくりゃ、本当に知らん顔だ。
つまり、援軍は一切アテに出来ない。あたしらだけで、あの船団をなんとかしなきゃいけないってことだ。
『攻撃隊は船着場と海岸へ即時展開せよ。それ以外は編成に従い、それぞれの場所で待機するように。
なお、これは演習ではない。全生徒そのつもりで当たるように。繰り返す、これは演習ではなく実戦である』
「A編成なら、あたし低学年の担当だ♪」
放送を聞き終えたナティエスが嬉しそうに言った。この子は小さい子の面倒をみるのが好きだ。
「ともかく一旦寮へ戻ろう。丸腰ってワケにはいかないだろうしね」
「うん」
バタバタとあたしら、一斉に寮へ戻った。
>Rufeir
『攻撃隊は船着場と海岸へ即時展開せよ。それ以外は編成に従い、それぞれの場所で待機するように。
なお、これは演習ではない。全生徒そのつもりで当たるように。繰り返す、これは演習ではなく実戦である』
そう結んで通話石からの連絡は終わった。
この編成だと、資格保持者のほとんどが船着場と海岸への配置になる。船で上陸可能な場所はその二つしかないから、そこに重点をおく作戦なんだろう。
「作戦としては、少々安直な気もしますがね」
タシュア先輩が酷評した。
もっとも相手の戦力が未知数だから、編成のバランスをとるのはけして簡単じゃない。
なによりこの状況だと、上陸阻止以外の選択肢は選びづらいだろう。
「装備を整えてくる!」
シルファ先輩が部屋を飛び出す。
「あたしも……もう、行きます」
「そうですか」
さっきの放送だと、あたしの所属は建物の入り口付近になる。ただその前に部屋へ戻って、ありったけもう少しいろいろ出すつもりだった。
――死闘になりそうな気がする。
認めたくないけど、朝からのあの感覚は本物だったらしい。
寮はどこも騒然としていた。
それはそうだろう。一斉に生徒が戻ってきて、各自装備を整えているのだから。
あたしも自室へと急ぐ。
「あ、ルーフェ。放送聞いた?」
「うん」
部屋にはもう、ナティエスが戻ってきていた。
「なんかさ、すごいことになっちゃったね」
「そうだね……」
なぜだろう、一段と嫌な予感に襲われる。
けど何気ないふうを装って、棚からとっておきのものいろんな物を取り出した。両親とも傭兵稼業をやってると、こういうものがイヤでも揃う。
太刀の方も、もう一度鞘から出して点検する。とある経緯でタシュア先輩からもらったもので、いつ見ても吸い込まれそうな刀身がなにより気に入っていた。
柄を握りなおして具合をたしかめる。
――いける。
胸のうちに確信が生まれた。
「ルーフェ、あたし低学年の担当だから、先いくね!」
小太刀の方も確かめていたあたしに、ナティエスが声をかける。
「うん、気を付けてね」
「だいじょぶ。
あ、そうそう。冷蔵庫のケーキ、勝手に食べちゃダメだからね?」
そう言って彼女は出ていった。
そのあとあたしもすぐ、普段のもの以外に予備の従属精霊――何らかの方法で従えた精霊を、魔力石に閉じ込めたもの――も持って部屋を出た。
「ルーフェイア!」
「イマド?」
渡り廊下のところで、今度はイマドと鉢合わせした。
「もう、装備はいいのか?」
やっぱりどこか、緊張感がただよっている。
「うん。
それよりイマド……間に合うの? 海岸でしょ?」
「まぁだいじょぶだろ。つか、お前もだろ?」
「え? あたし、行かないけど……」
イマドが怪訝な表情になる。
「行かねーってお前、んじゃどこなんだ?」
「校舎の玄関前」
「――は?」
イマドが呆れ顔で聞き返してきた。
「ちょと待て、なんでお前がそこなんだよ!」
「だってあたしまだ、物理攻撃三級の検定、受けてないし……。
それに魔法も、従属精霊持ってるの……知られちゃうと困るから、ぜんぜん……」
「そういやそうだったな」
あたしはいろいろ事情があって、これなしにはやっていけない。
でも本来学院内で従属精霊の使用が許可されるのは、傭兵隊に所属する上級生だけ。あたしはまだその年齢じゃないから、資格がなかった。
だからこのことは、出来る限り内緒にしてある。
そんな理由で、バレてしまうような検定は、なかなか受けられない状態だった。
「まぁいいや。ともかく気をつけろよ――って、お前にゃ言うだけムダかもな」
「ううん、ありがと。
――そうだ、これ使って」
思いついて、イマドに予備の従属精霊を渡す。これがあるとないとでは、雲泥の差だ。開放して自分と同化させることで、いろんなことが出来る。
「いいのか?」
「うん。あたしはいつもの二体、ちゃんと使ってるから」
「そか。んじゃ借りるぜ」
なぜだろう、イマドが受け取ってくれてほっとする。
「ま、ともかく頑張ろうぜ」
「イマドもね」
そう言って彼は海岸へ行くために左へ、あたしは右へと別れた。
大急ぎで廊下を駆けていく。
こんなふうに館内を走ったら普段は教官に怒られるけど、さすがに今日はそんなことを言う人はいなかった。教官たちまで走ってる。
「あら、ルーフェイア。あなた海岸じゃないの?」
「はい」
途中で先輩につかまった。
「いいじゃない、助かるよ。なにせこの子強いから」
一緒にいたんだろう、ロア先輩が後ろからぽんぽんとあたしの頭を叩く。
「そうね。たしかにこの子、上級傭兵隊並だものね。
さ、急いで行くわよ。そうそう、悪いけれど最前列に入ってもらうわね」
「了解です」
先輩たちと一緒に走って、着いたところで最前列の隊に入った。
船団がかなり迫って来ている。
――地獄が、始まる。
あたしはひとつだけ、深呼吸した。
>Tasha Side
「いよいよですか……」
シルファとルーフェイアが出ていった部屋で、タシュアはつぶやいた。
実を言えば昨日から、嫌な予感はしていたのだ。
戦場で育ったが故なのだろうか? なにか大きなこと――それも悪いことばかり――がある場合は、事前に奇妙な感覚を覚える。
激戦になる。そんな気がした。
相手は分からないが、おそらく正規兵だろう。
(――有利とは言えませんね)
この学院が誇る(?)上級傭兵隊は、そのほとんどが派遣されて不在だった。タシュアたちも、とある契約をたてに拒否していなければ、今ここにいなかったはずだ。
僅か十数名の上級傭兵隊。
いくら従属精霊の力を借りているとはいえ、絶対的な数が少なすぎる。
しかも残る生徒の八割は、実戦経験が無い。所詮は「訓練生」なのだ。
さすがに厳しい表情のまま、タシュアは自室を出た。
騒然としている中、女子寮へと向かう。
「――タシュア!」
「準備は終わったのですか?」
向こうから急ぎ足で来たパートナーにそう尋ねた。
「ああ。といっても、いつもの装備だけなんだが……」
タシュアやルーフェイアの構え方を見たせいだろう。シルファは多少自信がなさそうだった。
「それだけ整えてあれば問題ないでしょう。
――行きますよ」
そのまま歩き出す。後ろからサイズ(大鎌)を手にしたパートナーがついてくる気配がした。
「タシュア、待ってくれ。いったい……どこへ行くんだ?」
本来向かうべき船着場へ行こうとしないタシュアに、シルファが尋ねる。
「教室へ行きます。低学年を守る人間が殆どいませんからね」
攻撃理由は定かではないが、この学院の兵力は基本的に金で買える。
いっぽうで迫る船団はどうみても、どこかそれなりの所属――小国かそれ以上――だろう。
それほどのところが金を出さずに包囲攻撃するということは、この学院を邪魔に思っているということだ。
兵力を見ても同じことが言える。
本土への交通手段さえ封じてしまえば、学院は折れざるを得ない。だがそれにしては、持ち込んでいる兵力が大げさだった。
もちろん、脅しのためにわざと、という可能性もあるが……だがタシュアにはどうしても、そうは思えなかった。
何かが違うのだ。
こういう状況を考え合わせると、低学年でも危険は免れない。
しかも学院のその辺りの運用は、どうにも下手だ。子供たちをシェルターにでも入れるなら分かるが、出入り自由な教室にクラスごとに分散させて、気休め程度の上級生を引率につけた程度で、守れるわけがない。
「それなら私も行く」
命令違反を承知でシルファも同行する。
その時、裏庭の方で悲鳴が上がった。
「始まりましたか」
まだ船団は上陸していない。それなのに裏庭で戦闘が始まったというのなら、もはや校舎も安全とは言えないだろう。
「シルファ、急ぎますよ」
惨劇の幕が上がろうとしている学園の中を、二人は走り出した。
>Rufeir
――まさか、どこかの正規軍?
接近してきた来た敵を見て、背筋を冷たいものが走る。
かなり厳しいバトルになりそうだった。なにしろこちらにはごく少数の上級傭兵隊の先輩以外は、プロと渡り合える人間がほとんどどいないのだ。
船団から大きな鳥が舞い上がる。上陸が難しいとみて、先に空中部隊を出したんだろう。
裏庭の方で悲鳴が上がった。広いあっちにかなりの数が降りたらしい。
続いて衝撃音。足元が揺れる。艦砲だ。
「来るわよ!」
エレミア先輩の鋭い声が飛ぶ。
あたしは鞘から太刀を引き抜いた。刀身が太陽を反射する。
大鳥から飛び降りた敵兵が突っ込んでくる。真正面だ。
間合いを測る。
長剣を振りかぶる兵士のスローモーション。
――今。
ステップを踏んで左へ避けながら、太刀をふるう。
血しぶきがあがった。
それを背中で見ながら、いちばん近い敵へ。
目くらましを兼ねて初級魔法を叩き付け、その隙に切りかかる。
同時にかかってきた二人は、かわしただけで相打ち。
さらに別の兵士に向き直ったとき、視界のすみに銃を構える敵の姿を認める。とっさに呪文の詠唱を始めた。
敵が銃を撃ち、あたしの防御魔法が発動する。
きぃん、という音がして、銃弾が魔法の盾に阻まれた。
「ありがと、助かったわ」
狙われていたことに気付いたエレミア先輩が、あたしに向かって微笑する。
「いえ、当然のことですから」
気が付いた人間がフォローしなかったらバトルでは勝てないことを、かつての戦場生活であたしはイヤというほど思い知らされていた。
――それにしても。
敵の数が異常に多い。その上あたしの周囲へは、兵士が集まりだしていた。
太刀を手に猛威を振るう金髪の少女。これがどれほど目立つか。
左右からまた同時に切りかかられる。
考えるまでもなく身体が先に動いた。
身を少し低くしながら刃をかわし、まず左の兵へ下段から一撃を浴びせる。そして勢いを利用しながら向きを変え、残る兵士を打ち倒した。
そこへ通話石から連絡が入る。
運営の先輩(たぶん)の、切羽詰った声。
『手の空いてる隊、教室へ来てくれ! 低学年が襲われてる!!』
――なんてことを!
プロの兵士のくせに子供たちを襲うなんて。
でも一方で、あたしは知ってる。
戦争は場所を選んでくれない。そこが学校だろうが病院だろうが、戦場になるときはなる。
あたしは昔、そういう場所にいた。
刀身に一瞬辛い思い出が映る。
この学院に来る前、戦場で銃声を子守り歌にしていた頃の出来事だ。
あの時あたしは生き延びるために……。
――だめ、今は!
はっとして自分で自分を叱りつける。
いまは思い出にひたってる場合じゃない。
「遥かなる天より裁きの光、我が手に集いていかずちとなれ――」
敵集団がわずかに体制を崩したのを見て、あたしはすかさず呪文を唱えた。
「ケラウノス・レイジっ!」
瞳を焼く光芒が天からふりそそぎ、いかずちが大地に炸裂する。
――思惑どおり。
得意の多重魔法――発動ポイントも少しづつずらしてある――に、かなりの数の敵が巻き込まれた。向こうのの兵器も、電撃にさらされてつぎつぎショートする。
これでだいぶ、相手の数が減ったはずだ。
通話石――こっそり秘匿通話も聞こえるように改造してある――から、次々と情報が入る。
船団が海岸方面へ向かうらしいこと。教室が危険なこと。
――そういえばナティエス、大丈夫だろうか?
彼女、低学年担当のはずだ。何もないといいのだけど。
さらに情報が入る。
裏庭が多数の敵に襲われていること。そして被害が大きそうなこと。前庭から戦力を回して欲しいこと……。
「十四班から二十班……十三班も裏庭へ行って!」
戦闘の合間を縫って、ここの指揮を取っているエレニア先輩が命令を出す。
「ロア、この子たち連れて、裏庭へお願い」
「あ、ちょっと待って。ルーフェイア、あなたも来なさい」
いきなりロア先輩からお呼びがかかった。
「ちょ、ちょっと! 彼女大事な戦力なのよ」
「物理攻撃の四級を三人置いてくから、それで調整してよ。それにこの子の能力じゃ、ここは狭すぎるって」
「もう……!」
結局あたしは、裏庭へ回ることになった。もっともロア先輩には日頃いろいろ面倒を見てもらってるし、あたしのことを良く知ってるから、このほうが気楽といえば気楽だ。
けどそれ以前に、そもそもあたしは……。
「さあ、急ぐよ! 裏庭まで駆け足!!」
ロア先輩の号令が飛び、あたしは他の生徒と一緒に慌てて駆け出した。