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◆葛藤◆

2:苦悩


◇Rufeir
 重い音を立てて、魔獣が倒れた。
 ここは校舎がある場所ではなくて、隣のちいさな島だ。丸ごとぜんぶが魔獣を放った訓練施設になっていて、日に何度も連絡艇が往復している。
 わざわざこんな場所まで来ているのは、校舎裏の訓練施設を使うのを、禁止されてしまったからだ。
 ほんとうはその施設も、低学年は使用禁止だ。でも訓練が出来ないと困るだろうと、学院長が例外で、あたしの使用を許可してくれた。
 けどそこで、朝夕自主訓練を兼ねて魔獣を倒していたら、怒られた。根こそぎ狩ったらダメだそうだ。
 ともかくそういう理由で、ここまで毎日、通うことになってしまった。
 倒した魔獣がもう動かないのを確認して、息を吐く。
 複雑な気分だった。
 望んで来た学校は、楽しい。初めてのことで戸惑ってばっかりだけど、それも楽しかった。
 でもまさか、こうやって戦っているときがいちばん、気楽でいられるようになるなんて。
 馴染めない自分。
 同じことができない自分。
 ここはシエラでMeSだけど、それでもみんなとの間に、深い溝があるのが分かる。
 彼女たちは、実戦なんて知らない……。
 それはいいことだと思う。けどそのことが、どうにもならない差になってた。
 あたしにとっての当たり前。生きていくために必要だったこと。けどそれはどれも、みんなにとっては非日常で、想像を超えた世界だと思い知る。
 いろいろ考えながらも、背後に忍び寄る気配に、ふたたび戦闘態勢に入る。音と気配と臭いが、どの魔獣かをあたしに告げる。
 間合いを計りながら振り向いた先には、イソギンチャクを思わせる魔獣。
 触手を振り上げ、一気に繰り出してくる。
 身体を入れ替えてかわすと、鞭のようなそれは、近くの大きな石を突き砕いた。
 この島に放されている魔獣は、さすがに強さが違う。
――でも。
 十分に引きつけておいて、低位の雷撃魔法を放つ。
 魔獣がひるんだところで、続けて火炎魔法。炎といっしょに突っ込んで、急所へ太刀を突き立てた。
 同時に、太刀を媒介にして、魔獣の体内へ雷撃を放つ。
 完全に動かなくなったのを確かめてから、あたしは魔獣から離れた。
 大きく息を吐く。
 やっぱり、ここへ来たことそのものが、間違いだったんだろうか?
 最近はみんな、露骨にあたしのことを避けてる。こっちを見ながら、囁き交わしてるのもしょっちゅうだ。
 中にはあからさまに言う子もいたし、持ち物に手を出そうとする子もいる。
 つまり……出て行け、と言いたいんだろう。
 異質なものを、人は警戒する。
 シュマーという一族の、総領家。代々傭兵をしてきた集団を、束ねる存在。
 冷静になって考えてみれば、こんなものがふつう人たちのあいだで、馴染めるわけがない。
 なのにそう分かっても、諦めきれない自分がいた。イマドがなぜかあっさり受け入れてくれて、だからもしかしたら他の人も、と思うのだ。
 けどそれは、彼が例外なだけで……。
 どうしたらいいのか、まったく分からなかった。
――バトルなら、考えなくても身体が動いて魔法を使えるのに。
 自分が情けなくて、涙がこぼれる。
 教室の中で、みんなといっしょにやっていきたい。ただそれだけのことさえ、あたしはまともに出来なかった。
 母さんがなぜあたしを学校に行かせなかったか、やっと分かった気がする。
 そのとき、アラームが鳴った。慌てて時計を見てみると、針が戻る時間を指している。
 涙をぬぐってから、あたしは走り出した。少し奥まで来てるから、急がないと船に間に合わない。
 魔獣をやり過ごしながら、船着場まで戻る。ちいさな詰め所の前に、人影があった。
「あぁ良かった、無事戻ってきたね」
「はい、遅くなってすみません」
 ここの守衛さんだ。
「いつも時間より早く帰ってくるのに、今日は遅いから心配したよ」
 続く言葉をいっかい飲み込んで、守衛さんがあたしの顔を覗き込んだ。
「――泣いてたのかい?」
「え? あ、なんでも、ありません……」
 恥ずかしくて下を向いたあたしに、守衛さんが声をかけた。
「こっちへおいで、お茶でも飲んでいきなさい」
 言って、詰め所のドアを開ける。
「あの、船は……?」
 心配になって尋ねる。船はちゃんと時刻表があって、定時に出さないといけないはずだ。
 でもおじさんは、ちょっと笑って答えた。
「船ならね、いま故障中だよ。うん、さっき故障したんだ」
 最後の便だから自分が朝来た船で帰るだけだし、と付け加えて、おじさんはあたしを招き入れた。
 お茶とクッキーとが出される。
「さ、遠慮しないで食べなさい」
「ありがとう、ございます……」
 何かのハーブらしくて、カップからいい香りがしていた。
 それを見るうち、なぜか涙が出てくる。
「学院で、何かあったのかい?」
 聞かれたことに答えようとしたけど、よけい涙がこぼれただけだった。
 何とか泣くのをやめようとして、必死に涙をぬぐうあたしに、おじさんが言う。
「学院長から聞いたよ、少年兵あがりだそうだね」
 驚いて顔を上げると、おじさんの優しい表情があった。
「学院長とは、昔からの知り合いでね。きみがこっちで訓練するようになったから、と頼まれたんだよ。
 まだ、学院は慣れないかい?」
 また答えられなくて、下を向く。
 けどおじさんはあたしの様子で、分かってしまったみたいだった。
「聞いた話じゃ、いろいろ言われてるみたいだね」
 ほんとうは否定しなきゃいけないのかもだけど、できない。涙が次々あふれて、止まらなくなる。
「詳しく知っているわけじゃないから、的外れかもしれないが」
 そこでいっかい言葉を切って、おじさんはそっと、あたしの頭を撫でた。
「きみはこの学院に、居ていいんだよ」
「――!」
 その言葉を聞いた瞬間、あたしはいままで以上に泣き出してしまった。こんなことで、こんなに泣くなんてと自分でも思うけど、止めることができない。
 おじさんがそっと、あたしを抱き寄せた。
「辛かったら、いつでもここへ来なさい。のんびり休むくらいはできるし、お茶ならいくらでも出すよ」
 暖かい、笑顔と言葉。
 あたしがうなずくと、また頭を撫でられた。
「いい子だ。
 さ、もう少ししたら本島へ戻ろう。遅くなりすぎたらいけないからね」
「はい」
 少しだけ、元気をもらった気がした。

◇Imad
 コトが起こってから、しばらく過ぎた。けど、状況が変わる気配はない。
 鈍感なルーフェイアのヤツも、さすがにいろいろ分かってきて、参りはじめてた。なかでも聞こえよがしにゴチャゴチャ言われんのが、こたえてるっぽい。
――平気だったら、逆に怖えぇけど。
 ただ細かいコト言うと、まだこいつ微妙にカンチガイしたままだ。自分が最前線にいたせいでいろいろズレてて、それが嫌がられてると思ってる。
 まぁたしかに、ある意味で間違っちゃいねぇんだけど……。
 ホントは教えたほうがいいのかもしんねぇけど、俺はそのまんまにしてた。説明しても通じねぇ気がしたし、何より分かったら、よけい落ち込みそうな気がする。
 けど分かるとかじゃナシに、こいつそろそろ限界だろう。なんかあるたんびに前のこと思い出して、自分で傷口えぐるかっこうになってる。
 前にもまして食わねぇし、身体おかしくなんねぇうちに、マジで手打ったほうがよさそうだった。
「ルーフェイア、おまえホントに大丈夫か?」
「あ、うん。だいじょぶ」
 口じゃそう言ってっけど、ここんとこ顔色もあんま良くない。
 放課後の自習室で、俺とルーフェイアはだらだら、課題片付けてるとこだった。ほとんどの日はコイツさっさと自主訓練に行っちまうけど、週に一回か二回、苦手な数学を俺に教わりに来る。
 けど課題より、やっぱコイツの身体のほうが心配だ。
「診療所行って、診てもらったほうがいいんじゃねぇか?」
「でも、病気じゃないし……」
 すぐ泣くクセに、こーゆーとこは気丈っつーか、頑固っつーか。
 当のルーフェイアのほうは、教科書をめくってる。
「えっと……このへん、なんだけど」
「おまえ、ほんっと数学苦手だな」
 基礎的なとこはしっかりしてっけど、一段上がるとどうもこいつダメだ。
 ただ、いわゆる「できない」のとは違う。どうにも数学は飲み込みが悪くて、分かるまでに時間がかかるだけってタイプだ。
 だからちゃんと教えれば根本的なとこまで分かっけど、授業だけじゃ時間足んなくて、ついていくのがやっとだった。
 戦闘なんかに才能ぜんぶ取られて、こっちに残らなかったんじゃないか、って気がする。
「何がわかんねぇんだ?」
「えぇと……あ、ここ。どうしてこれ……こう、なっちゃうの?」
「簡単だぞ?」
 しばらくそんなやりとりが続く。
 ってもルーフェイアのヤツだって、頭は悪くないわけで。ひと通り終わらせんのに、そんな時間はかかんなかった。
「一休みしようぜ」
「うん」
 勉強道具を放り出して、おもいっきし伸びをする。
――あれ?
 ルーフェイアの頭越し、入り口の扉のほうで、アーマルとヴィオレイのヤツが手招きしてた。
 こっち来りゃ早えぇのに、そうもいかないらしい。
「悪りぃ、ちっと席外すわ」
「あ、うん」
 ルーフェイアのヤツをあとに残して、悪友たちの方へ行く。
「なんだよ?」
「いや、そのさ……」
 どっちも歯切れが悪い。言いよどんだままダンマリだ。
「用がねぇなら、帰っぞ?」
「待てってば」
 もっかい顔を見合わせてから、ヴィオレイのほうが口を開く。
「――おまえさ、ルーちゃんとあんまりいっしょにいると、やばいと思うんだよ」
 思わず吹き出した。
 ある程度予想してたけど、ここまでパターンどおりだとバカすぎて笑うしかない。
「おい、笑い事じゃないぜ? 女子の連中、メチャクチャ言ってるぞ」
「俺がルーフェイアと寝たとでも?」
 悪友二人が石化する。
「い、いや、そこまでは……」
 もうちっとなんか言われっかと思ったけど、意外と女子は気が小さいらしい。
「だったら別に、どうってことねえだろ。ほかにねぇなら、俺戻るわ」
「おい、ちょっと待てよ」
 こいつらが呼びとめた。
「なんだよ?」
「……あのさ、おまえどうして、そんなにアイツの味方すんだ?」
「いや、それはルーちゃんが可愛いから」
 よく分からない茶々を入れた、ヴィオレイのヤツを殴りつけながら、ちっと考える。
 こいつら口が堅いし、話が分かれば味方になるかもしんない。
「誰にも言わないって、約束できっか?」
「へ? まぁ、おまえがそこまで言うなら、約束するぜ。なぁ?」
「当たり前じゃないか」
 なんかひとり微妙にズレてる気がすっけど、ともかくこいつらが同意する。
 で、一呼吸置いて。
「あいつ、戦場育ちなんだよ」
「戦場? 戦争孤児ってやつか?」
 さすがに予想の範囲超えてたらしくて、こいつらが的を外したことを返す。
「そんなカワイイもんじゃねぇって。
――あいつ少年兵あがりで、ずっと前線にいたんだよ」
 二人が呆然とする。
「ちょっとマテ、だってあいつ、俺らと同い年だろ?」
「あの可愛くて優しいルーちゃんが、そんな、そんなの……」
 言いたいことは分かる。黙って座ってたらルーフェイアのヤツ、誰がどう見ても、おとなしいお嬢さんだ。太刀振るって人を殺せるとか、思いつくヤツのほうがおかしいだろう。
「3つの頃から戦地にいて、5歳の頃にはもう、伝令とかやってたらしい。
 ここ来る直前とか、ホンキで最前線にいたしな」
「マジかよ……」
 重苦しい沈黙。
 いくらMeSのAクラスったって実戦経験のあるヤツなんて、ましてやこの年じゃ、いるわけない。
 その中に混ざる、「殺す」プロ。異質なんてもんじゃなかった。
「じゃぁ、ルーちゃんが本校へ、直接入学したのって……」
「ああ」
 悪友たちが顔を見合わせる。
「少年兵あがりじゃ、分校とかじゃハナシにならんよな」
「ルーちゃん……気の毒すぎるよ」
 話の流れから、部屋の奥でぼけっとしてるあいつに視線が集まると、それを感じたらしい。ルーフェイアのヤツが顔を上げた。 何か思うとこがあったらしくて、ふわりと立ってこっちへ来る。
 金糸の髪。碧玉の瞳。白磁の肌。
――妖精のような雰囲気の、華奢な美少女。
 その手が血に染まってるとか、まったく信じらんねぇ。
「……?」
 俺らの注目あびて、ルーフェイアが不思議そうに首をかしげた。
「えっと……どうしたの?」
「――あのさ、戦場にいたってホントなのか?」
「このバカっ!」
 とっさに口ふさいだけど、間に合わない。
 ルーフェイアの顔が曇った。
「……話しちゃった……の?」
 寂しげな瞳。
 なんかどきっとする。
「――すまねぇ」
「いや、俺らが聞いたんだし。イマドがわざと言ったとかじゃないから」
「ゼッタイ喋らないって」
 口々に言う俺らに、ルーフェイアのヤツが儚い微笑みを向けた。
 その瞳には、涙。
(おい、ちょっといいか?)
 悪友二人にささやいて、俺はルーフェイアから少し離れた。状況が状況だからこいつらもすぐ分かって、目配せしあってこっちへ来る。
「――あの通り、あいつもう、ボロボロなんだよ。だから……お前ら、頼むわ」
「分かったよ」
 悪友二人がうなずいた。

◇Natiess
 あのお嬢さん、思ってたほどヤワじゃなかったみたい。まだ授業とか、ふつうに来てる。
「もっと早く、ネ上げると思ったんだけど」
「イマドがいるからじゃない?」
 休み時間に、みんなでいつものおしゃべり。
「あの子って案外、あれで隙がないしね」
「あー、それたしかにそうかも」
 ルーフェイアって子、意外だけどすっごい用心深い。前に誰かが持ち物隠そうとしたけど、防御結界張ってあって手が出なかったって言ってた。
 そばを通るときに、転ばせようとかする子もけっこういるんだけど、一人も成功してないし。
「なんだろね、あの子。いわゆるお嬢様とは、ちょっと違わない?」
「そりゃまぁ、曲がりなりにもシエラの本校で、Aクラスになるくらいだし……」
 あの子、思ってたよりずっと頭良かった。理系はちょっと苦手っぽいけど、それだって十分トップクラス。得意な科目とか、まるで辞書か教科書だし。
「とゆかさ、あの実技、お嬢様にしちゃおかしくない?」
「うん……」
 みんなが顔を見合わせる。
 ルーフェイアって頭もたしかにいいんだけど、それ以上に実技がすごいの、だんだん分かってきた。
 それも剣技とかだけじゃなくて、待ち伏せとかかく乱とか、そういう実戦系まで強くて。けどこんなの、習えるもんじゃない。
「どっか、ほかのMeSにいたとか」
「あ、それはアリかも」
「でもそれでも、やっぱりおかしくない?」
 他のMeSからの転校は、ときどきある話。理由はいろいろで、もっと箔を付けたいなんてこともあるし、ふつうのMeSじゃレベルが低すぎて話にならないから、なんてこともあるし。
 ただそうだとしても、こういう実技も含めていちばんカリキュラムの進度が早いのが、このシエラ本校だったり。
 そこでついていくどころか、余裕でこなしちゃうとか、ちょっとあり得ない。
「なんだろね……」
 みんなで頭ひねってみるけど、答えなんてわかんなかった。
「でも、あの持ち物とか、お嬢様だよね」
「だよねぇ」
「どっちしたって、図々しすぎだし」
 けっきょくここへ話は戻ったり。
 そこへとつぜん、きゃらきゃらした声が割って入った。
「ねー、ホントにまだみんな、こんなコト続けんの?」
 視線がいっせいに集まる。
「こういうの、本校に入れないおバカさんが、やるんだと思ってた〜」
 オレンジがかったふわふわの髪に、薄い水色の瞳。ルーフェイアほどじゃないけど、でもかなり小柄。けど見かけに反して、言うことやること何でも強烈。
 ミルだった。
「あんた、何が言いたいんだい」
「べっつにー」
 図太いのか鈍いのか、シーモアの鋭い視線にもぜんぜん平気。
「たださ、頭の良し悪しと、やる内容って関係ないんだなーって。ちょっと感心しちゃった」
「――!」
 周り中が殺気立つなか、それでもミルったらけろっとしてるし。
「でもさぁ、こーゆーのって、シーモアらしくないよねー。めっずらしー。
 あ、もしかしてアレ? イマドがルーフェイアと、仲良しなっちゃったから?」
 このあとの惨劇予想しちゃって、一瞬みんなが凍りついたり。
 ミルの言ってること……的外れ、ってワケじゃない。けどそれヌキにしたって、ルーフェイアって子、空気読まないし。
 まぁその点じゃ、ミルはもっと空気読まないんだけど。
「あんた、痛い目でもみたいのかい?」
 ゆら、とシーモアが立ち上がって、あたしたち思わず後ろへ下がる。
「んー、見たくはないけどー。でもシーモア、ホントにいいの? 痛い目、どっち見るかわかんないよ?
 てか、いまやったら退学かもね。あたしはそれでもヘーキだけど」
「………」
 シーモアが動けなくなる。
 この学院、校内の暴力沙汰は全面禁止で、ヘタしたら退学処分。なにしろMeSだから、もし起こったら死者でるかもだし。
 でもこれ、あたしたちにとってはキツすぎ。ここ追い出されたら行くとこないし、なによりシーモア、辞められないワケがあるもの。
 いっぽうでミルは、退学とか平気。彼女ったらケンディクに片親だけどちゃんといる、この学院じゃ超少数派の家族持ちだから。
 きっとそれ分かってて、言ってるんだと思う。
 もちろんシエラでこんなこと言ったら、徹底無視で当たり前。だけどミル、そんなのされても一切気にしない子だし。
 だからいろんな意味で、いちばんやりづらい相手だったり。
「まぁいいや、どうせやめないでしょ。
 けどさ、あたし巻き込まないでね。そゆの楽しくなさげだもん」
 いったん言葉切って、ミルったら不敵な微笑。
「それにあの子が万一、どっかのMeS上がりとか、少年兵あがりだったら、あたし知〜らない」
 そう言い置いて彼女、ひらひら教室出てった。
「あいつ……!」
 飛び出して追いかけそうなシーモアを、慌てて止める。
「ミルの言うことなんて、気にしちゃダメだよ」
 けど、みんなからの同意はなくて。
 ミルが言ったことが、みんなのあいだにじわっと、広がったみたい。さっきとは違う感じで、みんな顔を見合わせたりしてる。
 シーモアが見回したら、みんなバツが悪そうに視線をそらした。
 気まずい沈黙。
 けどそのときアラームが鳴って、シーモアがポケットから通話石を取り出した。
「シーモア、もしかして倉庫の点検係り?」
「ああ。今日あったの忘れてたよ。行ってくる」
 足早に教室を出てく彼女を、みんなで見送る。
「けどさ……あの子いつも黙ってて、変わってるよね」
 しばらくして、誰かが言った。
「言いたいことあるなら、はっきり言えばいいのにね」
「そうだよね、黙ってたら分かんないもの」
「でも、イマドたちといるときは、話してるっぽいよ?」
 飛び交ううわさ話。
「やっぱり、なんかヘンな子だよね」
「それはぜったい言えてる」
「あんまりかかわらないほうが、いいっぽいよね……」
 話の落ち着き場所は、だいたいあたしも同感。あの子ったら、得体が知れなすぎだもの。
「シーモアはちょっと行き過ぎかもだけど、でもあの子だって悪いよね。もっと何か、話したりすればいいんだから」
「だよねぇ」
 みんな、うんうんとうなずく。
「何かするのはアレだとしてもさ、やっぱりあんまり、近づかないほうがいいよ」
 ちょっと後ろめたい目配せをお互いにしながら、そんなとこで話がまとまった。


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