◇Neal
「王都が、壊滅?」
あと一息で王都ってとこにある宿場町の、貸し走竜の小屋で、俺は思わず聞き返した。
「ああ。二日前の話だよ。とつぜん何もかも吹き飛んだとかで、かなりの人が逃げてきてる」
だから王都へ行くなら走竜は貸せない、ってことらしい。
貸し走竜は、この国ではちょっと大きな町や宿場ならどこにでもある、よく知られたシステムだ。俺みたいな旅人はお金払って、走竜と特殊な魔法の手綱を借りて、次の目的地まで乗っていく。
たまに行方をくらまして走竜を盗もうってヤツもいるけど、魔法の手綱の効力がそんなに長くない。しかも切れると、走竜が暴れ出すようになってる。
「王都の貸し厩舎は跡形もないっていうし、かといってここからじゃ、王都と往復するほど効力は持たないしね。戻る前に暴れ出してしまうよ」
盗難防止のためだから、走竜の暴れはハンパじゃない。殺すしかない、っていわれるほどだ。
「すまないね」
「いえ、大丈夫です」
ここでゴネても仕方ない。
姉貴やドクターに悪いと思いながらも、別邸を出たあと、俺は貸し走竜を乗り継いでここまで来た。急ぎたかったのと、さすがに歩いてくのは自信なかったからだ。
そうやってやっと昨日の夕方、王都の近くまでたどり着いたとこだった。
で、今朝また借りていよいよ王都へと思った矢先、さっきの話だ。
一昨日起こった騒ぎなら、昨日にはこの宿場にも報せが届いてたはずだ。ただ俺は夕方ここへ着いてメシもそこそこに寝ちまったから、知るチャンスを逃したんだろう。
ともかく立っててもしょうがないから、歩き出す。ただひさびさに荷物背負って自分の足で歩いたせいか、思ってたよりキツい。
王都からここまでは、歩くと半日くらいの距離だ。けどこの調子だと、日暮れ前になりそうだった。
街道は、意外に人の姿があった。走竜や自分の背、荷台なんかに荷物をいっぱい持ってる人が多い。たぶん王都に親戚がいるとか、そういう人たちが様子を見に行くんだろう。
その人たちに混じって、黙々と歩く。
逆方向から来る人たちにも、けっこう会った。こっちはみんなボロボロで、荷物を持ってる人のほうが少ない。
「――リャノ、リャノじゃないか!」
「兄貴!」
少し先で声が上がった。向こうから逃げてきた人とこっちから向かってた人が、上手く行き会ったらしい。
「心配で、食べ物を持って行くところだったんだ。無事だったのか!」
「あぁ、うちはみんな無事だよ。公開処刑に行かなかったおかげで、助かったんだ」
なんか物騒な言葉が聞こえる。
「隣は夫婦で公開処刑見に行ったっきり、行方知れずだよ」
「人様の死にざまをわざわざ見に行ったりするから、バチが当たったんだろう」
俺は思わず声をかけた。
「あの、何があったんですか?」
俺に視線が注がれる。
「あんたも誰か、王都に知り合いがいるのか?」
「兄貴、いま王都へ向かう人で、そうじゃない人居ないと思うぞ」
「それもそうか」
突っ込まれて、兄貴が頭掻いた。
「王都で何がって、どこから言えばいいかなぁ」
弟のほうが、考え込みながら話し始める。
「ともかく公開処刑で火あぶりがあるって話で、けっこうみんな見に行っちまってさ。けど俺そういうの苦手なんで、行かなかったんだ。
それで開始の鐘がなったと思ったら、わりとすぐ、いきなりぜんぶ吹っ飛んじまったんだよ」
王都に居た人たちも、よく分からないほど、とつぜんだったらしい。
「王城はぜんぶ、崩れちまったってさ。俺の家からでも、塔とかなくなっちまったの分かったから、ホントだろうな。
広場はいちばん酷くて、でっかい穴しか残ってなかったらしいし」
最大クラスの古竜が大暴れしたとかくらいの、ものすごい状態みたいだ。しかもそれが一瞬でっていうんだから、どんだけ被害がでたかなんて、想像もつかない。
「でもなんで、そんなことに」
「ぜんぜんわかんねぇよ。でもウワサじゃ、公開処刑のせいだろうって」
知り合いに会えてほっとしたのもあるんだろう、この人熱っぽい調子で、どんどん喋る。
「公開処刑か……。それにしても、火あぶりってのは相当だな。いったい何やらかしたんだ?」
「それも、よくわかんねぇんだよな」
ほんとに、いろんなことが謎のまんまみたいだ。
「何日か前にお触れがあって、『巫女の末裔』さまとやらが、この国に来たって。お披露目があったんだ」
出てきた言葉にはっとする。
「あの、それで?」
「え? あぁ、それで何日かしたら、こんどはそれがウソだったって。だからそんな大罪人は、火あぶりって話だった」
フィアのことだ。
フィアをムリに連れて行っておいて、何か思惑と違ったから、殺そうとしたに違いなかった。
「ただ俺はさ、なんか違う気がすんだよな。あの王様のことだから巫女さまってのはホンモノで、でもなんかムチャ言って断られて、そのせいで火あぶりじゃねえかなって」
「ありそうだな……」
俺の居た町は王都から遠くて、王様とかあんま関係ないから、好きとか嫌いとかって話もなかった。けどこの辺じゃ、けっこう嫌われてるらしい。
「このあいだもどっかの使者を、無礼働いたとかで、首切って晒してたからな」
王様ってのは、かなり血の気の多い人みたいだった。
「その巫女って、どうなったか分かりますか?」
何か少しでも、分からないかと訊いてみる。
男が考え込みながら答えた。
「吹っ飛んだあと、ぶち切れた連中が殺してやるっつって、探して見つけたっては言ってたな。ただそいつらもやられちまったから、そのあとはどうなったか……」
とりあえず、そのとき生きてたのは確かみたいだ。
「俺、やっぱりこのまま王都行ってみます。あいつまだ、いるかもしれないんで」
「そうか、気をつけてな。会えること祈ってるよ」
別れてまた歩き出す。
道を行くとだんだん、行き会うひとたちの様子が酷くなってった。埃まみれでボロボロってだけじゃなくて、どっかケガしてる人が多い。道端にしゃがみ込んでる人や、中には倒れて動かない人もいた。
たぶんさっき言ってた、「ぜんぶ吹っ飛んだ」ときに、こうなったんだろう。
まだ半分程度しか来てないのにこれじゃ、王都はこないだ俺らの町が魔物に襲われたとき以上に、ヒドいことになってそうだ。
――これを、フィアが。
背筋に冷たいものが伝う。
何かふつうとは違う、とんでもないモノを持ってるのは分かってたけど、こんなのもう人じゃない。
そう思うと怖くなって、足が止まった。
あの寂しげな表情を思うと、行かなきゃダメだと思う。けど、足が動かない。
「――そこの坊や」
とつぜん、誰かに声をかけられた。
あたりを見回す。
「私よ」
いつの間にか、背の高い女の人がすぐ横に居た。
フードを目深にかぶってて、手には杖。外套はびっしり、不思議な紋様で縁取りされてる。どう見ても、どっかの魔道士ギルドに属してるとか、長年経験積んだ占い師とか、そんな雰囲気だ。
「ちょっとこっちへ来なさい。あなたと、話さなきゃいけないことがあるようだから」
自分でもワケが分からなくなってたせいか、この人に言われるまま、俺は街道から離れたところまで行く。
「さて、と。ここなら誰も、聴く者もないわ。
――坊やはあの、巫女さまの知り合いね?」
驚く俺に、女の人が笑った。
「そんなに驚かなくていいわ、この水晶玉が囁いただけ。世の中には不思議なことは、ゴマンとあるのだし。
さ、坊やも座りなさい」
野原の中にいくつも転がる大きな石のひとつを、俺に勧める。
「いい子ね。さて坊や、巫女さまをどう思う?」
とっさに答えられなかった。
「怖い?」
下を向く。
「怖いでしょうね。でも、それがふつうよ」
「え?」
驚く俺に、この人は笑って言った。
「人は自分より強いものを、恐れるもの。殺されるかもしれないから、それは当たり前。だから、おかしいことじゃないわ」
女の人がそこで、一回言葉を切る。
ふっと、風が通ってった。
「けど坊や、いちばん怖かったのは、いちばん辛かったのは、誰かしら?」
「あ……」
そんなこと、考えるまでもなかった。それは間違いなくフィアだ。
「行っておあげなさい。あの子、待ってるから。
――そうそう、そのペンダントを貸して」
言われるまま、俺はずっと持ってた、フィアのペンダントを差し出した。女の人が手をかざして、何か呪を唱える。
「これで、あの子の居場所が分かるはず。さぁ、早く行きなさい」
俺に返しながら、この人が急かす。
ペンダントを握るとたしかに、なんとなくフィアのいる方向が分かった。
「ありがとう――え?」
視線を上げてお礼を言おうとしたときには、女の人の姿はない。
首をひねりながら歩き出すと、また違う人に呼び止められた。見るからに調理人って格好の、恰幅のいい人だ。
「あんた今、女の人と話してなかったか?」
「ええ。でも急に、いなくなっちゃって」
俺の答えに、調理人がなんとも言えない表情になる。
「俺は以前城の調理場で、長く働いてたんだが……あの人、ずいぶん昔に亡くなった、太后様だよ」
「え……」
背中があわ立つ。
太后さまってたしか、今の王の母親のことだ。その人が、とっくに死んでるのに、俺の前にいたってことは……。
おじさんが話を続ける。
「もともとは、力のある魔道士だったらしい。城のお抱え占い師になって、よく当たるって評判で、前王のお妃になったんだ。
亡くなられたあともこの国を心配して、ときどき姿を現すって、もっぱらの噂なんだよ」
「そうなんですか……」
そんな人がいたのに、なんでこんなことになったのか。
そもそもなんで、そんな人が俺のとこに出たのか。
思う俺の背に、風が囁いた。
――あの子もあの人も、昔はあんなじゃなかった。私が、死ななければ。
声が空に舞い散る。
――巫女の末裔よ、許して。国の者たちよ、許して。
そして最後に、俺の耳元で。
――行ってあげて、あの子のところへ。
フィアのペンダントを握り締めて、俺は歩き出した。
◇Fia side
ここは、どこだろう?
冷たい地面に身を横たえながら、フィアはそれだけを考えていた。
東へ、帰りたい。
あの町へ、あの家へ。
廃墟と化した王都を後にして、何日過ぎたか分からない。東へ、そう思いながらも人が怖くて街道を行けず、離れたところを歩くうち、道も見失った。
手をついて身体を起こし、立ち上がろうと足に力を入れる。だが四つん這いになる前に、腕が力を失った。
ばちゃりと泥のしぶきが上がり、顔と衣装を汚す。
どこをどう歩いたのだろう? いつの間にかフィアは、どこまでも続く泥地に迷い込んでいた。
乾いたのどを潤そうと、近くの水たまりに片手を伸ばしてすくい、そっと口に含んで――思わず吐き出す。清流を望んだわけではないが、ぶくぶくと泡の立つ沼地の腐った水は、異臭を放っていて飲めなかった。
もうずっと食べていない。食べる気にもなれない。
それがよけい体力の衰えを招いているのは、フィアにも分かっていたが、どうすることも出来なかった。
ずっと館の中に閉じ込められ、せいぜいが別の館へ送り迎えされるだけだったフィアには、食べられるものが分からない。木の実や草やキノコさえ、探し出せないのだ。
街道を行けば、もう少しマシかもしれないが、それも出来なかった。
何もかもが、怖い。
心変わりする他人と、何より自分自身が怖い。
また同じことを起こしてしまうのが怖い。
けっきょく自分でも何がしたいのか分からぬまま、漠然と東を想い続け、ふらふらと歩き続けた。
だがそれもそろそろ、終わりかもしれない。
もともと歩くのもおぼつかないほど、弱っていたフィアだ。水も食料もない状態でさまよい歩くのは、無謀以外のなにものでもなかった。
現にもう、立てない。
ニールに会えないまま力尽きるのは寂しかったが、これでいいのだ、という気もしていた。それどころかあの路地裏で、ニールに拾われる前に、死んだほうが良かったのかもしれない。
助けてもらったばかりに、彼に怪我をさせ、王都を消してしまった。災厄を引き起こすだけの自分など、このまま人知れず朽ちていくほうが、いいに決まっている……。
そして、気づく。
自分が泣いていることに。
悲しいわけではない。嬉しいわけでもない。怒っているわけでも、悔しいわけでもなかった。
広がる虚しさの中、涙だけがこぼれる。
それがひどく辛くて、自分の中の思い出にすがりついた。
ニール、姉のイルゼ、ドクター。ほんとうにささやかで、でも暖かい日常。
ただそれだけで、良かったのに……。
どこにこれほど残っていたのか、そう思うほどに、涙があふれて止まらなかった。
なぜあのまま、いられなかったのだろう?
なぜあのまま、そっとしておいてくれなかったのだろう?
思いがずっと、そこで巡る。
そのとき、何かが囁いた気がした。
――彼が、来るわ。
驚いて視線をさまよわせたが、人の姿も気配もなかった。
風が頬を撫でる。
――巫女の末裔よ、許して。
それきり、風は沈黙した。
代わりに何かが泥の水面を乱す、規則正しい音。
「フィア!」
いちばん聞きたかった声。
音の間隔が早くなる。
身体の向きが変えられる。
いちばん会いたかった、人。
「ニ、ル……」
かすれる声で呼ぶ。
「バカヤロ!」
そう怒鳴られたが、抱きしめられた腕の中は暖かかった。
◇Neal
フィアの状態は、ヒドいなんてもんじゃなかった。
どう見たって、最初に拾ってきたときより悪い。食べ物はもちろん、水もほとんど喉を通らなかった。きっと魔法使っても、もうムリだろう。
それでも何かになればと思って、俺は持ってきてたペンダントを、フィアにかけてやった。癒しの効果があるっていうなら、ちょっとは足しになるはずだ。
あと……俺自身もヤバい。
身体が、石でも詰まったみたいに重くてだるい。あと傷の治りきってなかったところが、少しヘンになってて熱を持ってる。
走竜に乗ってるときからいろいろ少し感じてたけど、降りて歩いてから、一気に来た感じだった。
――姉貴、ゴメン。
部屋から出たらダメだって、言われただけのことはある。
ただ、後悔はしてなかった。悪いことをしたとは思ってるけど、それでもフィアに会えたことのほうが、俺的には大きい。
いま居るのは、崩れそうな廃屋の中だ。フィア見つけた沼地のとなり、小さな森の入り口に建ってた。
ずっと使われてないらしくて、中も外も荒れ放題だったけど、雨露がしのげるぶんかなり違う。
――これからどうするか。
それがいちばんの問題だった。
フィアは、動かせるような状態じゃない。生きてるのが不思議なくらいだ。
ホントは誰か医者なり、人を呼んでくればいいんだろうけど、それもできそうにない。どこに人が住んでるか分からないし、待たせてる間に、フィアがどうなるか分からない。万が一魔物や野獣にでも見つかったら、その場でエサだろう。
いろいろ考えてみて、けっきょく俺は、フィアを背負って連れてくことにした。
明るくなるのを待って、様子を見に、ちょっと外へ出てみる。けど街道は、さすがに見えなかった。でも街道を離れて北へ来たはずだから、まっすぐ南へ進めば、そのうちぶつかるだろう。
なるべく早く出発したかったから、すぐ切り上げて小屋へ戻る。フィアを早くどうにかしてやりたいし、俺もずっとはたぶんムリだ。
「フィア、ゴメン、移動するけどガマンしてくれな?」
言うとフィアは目を開けて、かすかにうなずいた。もう声を出すのも、おっくうなんだろう。
ぐったりしたままのこいつを、どうにか背負って小屋を出る。
そのとき、風が頬を撫でた。
――こっちへ。
囁き声に視線をめぐらすと、昨日は気づかなかったけど、小屋の裏手から道が続いてた。
興味惹かれて、風に誘われるまま歩いてく。
「――泉?」
ほんの少し行ったところが、泉のある小さな広場になってた。ぽっかりそこだけ上が空いてて、遠く晴れ渡った空が見える。周りは名前も知らない大きな白い花や、もっと小さい花が、数え切れないほど咲いてた。
ほとりへフィアを降ろして、そっと手を入れて、すくう。久々の澄み切った水は、甘くて美味しかった。
「フィア、飲むか?」
言いながらこいつの口に、少し水を含ませてやる。でももう飲む力も残ってないみたいで、こぼすだけだった。
仕方なしに、こんどは持ってた布切れをよくゆすいで、顔や手足を拭いてやる。泥なんかで汚れきってたのが、元通り彫刻みたいにきれいになる。
ふっと、フィアが目を開けた。
引き込まれそうなほどに澄んだ瞳。
「だいじょぶか?」
大丈夫じゃないのなんか分かってるけど、そう訊く。
フィアがうなずいて、視線だけで、空と周囲を見回した。
「きれ……い、だね……」
「ああ」
森の中、日の光に花と水面とが照らされる。まるでおとぎ話の中に出てくる、秘密の泉みたいだ。
でも……ここはおとぎ話の中じゃない。
「ニール、あの、ね……」
「なんだ?」
苦しいはずなのに、フィアが必死に喋ろうとする。
「来て、くれて……嬉し、かった」
「バカ、当たり前だろ」
もっとほかに言うことがあるはずなのに、こんな言葉しか出てこない。
「会いたかった、の……」
こいつの瞳から涙があふれて、何も言えなくなって、抱きしめる。
あの時みたいに、出てってからいままで何があったか、俺の中に流れ込んでくる。
「ゴメンな、なんも出来なくて」
それしか言えなかった。
「ううん……」
フィアが首をふる。
「来て……くれた、から」
なんでこいつが。
なんでこんな目に。
心の底からそう思う。
フィアの望んだものなんて、なんの変哲もない、ごくごくふつうの生活だったのに。
「ニール」
フィアが遠い瞳をして、言った。
「好き……」
「俺もだ」
間髪いれずに思わず答える。
フィアはほんとうに嬉しそうに微笑んで、動かなくなった。
◇Ilze side
花の咲き乱れる泉のそば、彼女は墓標に話しかけていた。
「もう、誰もあなたたちに、何もしないから……」
こんなことがあってたまるか、そう思っている。だが現実には、特にフィアは、死んで初めて平穏を得たと言っていい。
あまりにも理不尽だった。
ここを知ったのは、不思議な風が囁いたからだ。王都が数日前に消えたと聞こえてきた頃、イルゼにそれは囁いた。
あの二人が、と。
それだけで何故かピンときたイルゼは、渋るドクターに頼み込んで、風を頼りにここまで来たのだ。
そして見つけたのは――折り重なるように倒れている、ニールとフィアだった。
何があったのかは、だいたい見当がつく。ともかく二人はふたたび出会い、ここで力尽きたのだろう。
ふっと、走る風が頬を撫でた。
気配を感じて辺りを見回す
「え?」
泉の向こうに、二人の姿がある。どちらも楽しそうだ。
「ニール、フィア!」
思わず声をかけたが、そのときにはもう姿は消えていた。
あるいは、最初から目の錯覚だったのか。
少し考えて、やはり気のせいではない、とイルゼは思った。そう信じたかった。
「また来るから。仲良くね?」
そんなこと言う必要はないと知りながら、二つの墓標に声をかける。
楽しげな風が、吹き渡った。
Fin
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