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◆遠き風に願いし君は◆

written by こっこ

5:再会、そして終章


◇Neal
「王都が、壊滅?」
 あと一息で王都ってとこにある宿場町の、貸し走竜の小屋で、俺は思わず聞き返した。
「ああ。二日前の話だよ。とつぜん何もかも吹き飛んだとかで、かなりの人が逃げてきてる」
 だから王都へ行くなら走竜は貸せない、ってことらしい。
 貸し走竜は、この国ではちょっと大きな町や宿場ならどこにでもある、よく知られたシステムだ。俺みたいな旅人はお金払って、走竜と特殊な魔法の手綱を借りて、次の目的地まで乗っていく。
 たまに行方をくらまして走竜を盗もうってヤツもいるけど、魔法の手綱の効力がそんなに長くない。しかも切れると、走竜が暴れ出すようになってる。
「王都の貸し厩舎は跡形もないっていうし、かといってここからじゃ、王都と往復するほど効力は持たないしね。戻る前に暴れ出してしまうよ」
 盗難防止のためだから、走竜の暴れはハンパじゃない。殺すしかない、っていわれるほどだ。
「すまないね」
「いえ、大丈夫です」
 ここでゴネても仕方ない。
 姉貴やドクターに悪いと思いながらも、別邸を出たあと、俺は貸し走竜を乗り継いでここまで来た。急ぎたかったのと、さすがに歩いてくのは自信なかったからだ。
 そうやってやっと昨日の夕方、王都の近くまでたどり着いたとこだった。
 で、今朝また借りていよいよ王都へと思った矢先、さっきの話だ。
 一昨日起こった騒ぎなら、昨日にはこの宿場にも報せが届いてたはずだ。ただ俺は夕方ここへ着いてメシもそこそこに寝ちまったから、知るチャンスを逃したんだろう。
 ともかく立っててもしょうがないから、歩き出す。ただひさびさに荷物背負って自分の足で歩いたせいか、思ってたよりキツい。
 王都からここまでは、歩くと半日くらいの距離だ。けどこの調子だと、日暮れ前になりそうだった。
 街道は、意外に人の姿があった。走竜や自分の背、荷台なんかに荷物をいっぱい持ってる人が多い。たぶん王都に親戚がいるとか、そういう人たちが様子を見に行くんだろう。
 その人たちに混じって、黙々と歩く。
 逆方向から来る人たちにも、けっこう会った。こっちはみんなボロボロで、荷物を持ってる人のほうが少ない。
「――リャノ、リャノじゃないか!」
「兄貴!」
 少し先で声が上がった。向こうから逃げてきた人とこっちから向かってた人が、上手く行き会ったらしい。
「心配で、食べ物を持って行くところだったんだ。無事だったのか!」
「あぁ、うちはみんな無事だよ。公開処刑に行かなかったおかげで、助かったんだ」
 なんか物騒な言葉が聞こえる。
「隣は夫婦で公開処刑見に行ったっきり、行方知れずだよ」
「人様の死にざまをわざわざ見に行ったりするから、バチが当たったんだろう」
 俺は思わず声をかけた。
「あの、何があったんですか?」
 俺に視線が注がれる。
「あんたも誰か、王都に知り合いがいるのか?」
「兄貴、いま王都へ向かう人で、そうじゃない人居ないと思うぞ」
「それもそうか」
 突っ込まれて、兄貴が頭掻いた。
「王都で何がって、どこから言えばいいかなぁ」
 弟のほうが、考え込みながら話し始める。
「ともかく公開処刑で火あぶりがあるって話で、けっこうみんな見に行っちまってさ。けど俺そういうの苦手なんで、行かなかったんだ。
 それで開始の鐘がなったと思ったら、わりとすぐ、いきなりぜんぶ吹っ飛んじまったんだよ」
 王都に居た人たちも、よく分からないほど、とつぜんだったらしい。
「王城はぜんぶ、崩れちまったってさ。俺の家からでも、塔とかなくなっちまったの分かったから、ホントだろうな。
 広場はいちばん酷くて、でっかい穴しか残ってなかったらしいし」
 最大クラスの古竜が大暴れしたとかくらいの、ものすごい状態みたいだ。しかもそれが一瞬でっていうんだから、どんだけ被害がでたかなんて、想像もつかない。
「でもなんで、そんなことに」
「ぜんぜんわかんねぇよ。でもウワサじゃ、公開処刑のせいだろうって」
 知り合いに会えてほっとしたのもあるんだろう、この人熱っぽい調子で、どんどん喋る。
「公開処刑か……。それにしても、火あぶりってのは相当だな。いったい何やらかしたんだ?」
「それも、よくわかんねぇんだよな」
 ほんとに、いろんなことが謎のまんまみたいだ。
「何日か前にお触れがあって、『巫女の末裔』さまとやらが、この国に来たって。お披露目があったんだ」
 出てきた言葉にはっとする。
「あの、それで?」
「え? あぁ、それで何日かしたら、こんどはそれがウソだったって。だからそんな大罪人は、火あぶりって話だった」
 フィアのことだ。
 フィアをムリに連れて行っておいて、何か思惑と違ったから、殺そうとしたに違いなかった。
「ただ俺はさ、なんか違う気がすんだよな。あの王様のことだから巫女さまってのはホンモノで、でもなんかムチャ言って断られて、そのせいで火あぶりじゃねえかなって」
「ありそうだな……」
 俺の居た町は王都から遠くて、王様とかあんま関係ないから、好きとか嫌いとかって話もなかった。けどこの辺じゃ、けっこう嫌われてるらしい。
「このあいだもどっかの使者を、無礼働いたとかで、首切って晒してたからな」
 王様ってのは、かなり血の気の多い人みたいだった。
「その巫女って、どうなったか分かりますか?」
 何か少しでも、分からないかと訊いてみる。
 男が考え込みながら答えた。
「吹っ飛んだあと、ぶち切れた連中が殺してやるっつって、探して見つけたっては言ってたな。ただそいつらもやられちまったから、そのあとはどうなったか……」
 とりあえず、そのとき生きてたのは確かみたいだ。
「俺、やっぱりこのまま王都行ってみます。あいつまだ、いるかもしれないんで」
「そうか、気をつけてな。会えること祈ってるよ」
 別れてまた歩き出す。
 道を行くとだんだん、行き会うひとたちの様子が酷くなってった。埃まみれでボロボロってだけじゃなくて、どっかケガしてる人が多い。道端にしゃがみ込んでる人や、中には倒れて動かない人もいた。
 たぶんさっき言ってた、「ぜんぶ吹っ飛んだ」ときに、こうなったんだろう。
 まだ半分程度しか来てないのにこれじゃ、王都はこないだ俺らの町が魔物に襲われたとき以上に、ヒドいことになってそうだ。
――これを、フィアが。
 背筋に冷たいものが伝う。
 何かふつうとは違う、とんでもないモノを持ってるのは分かってたけど、こんなのもう人じゃない。
 そう思うと怖くなって、足が止まった。
 あの寂しげな表情を思うと、行かなきゃダメだと思う。けど、足が動かない。
「――そこの坊や」
 とつぜん、誰かに声をかけられた。
 あたりを見回す。
「私よ」
 いつの間にか、背の高い女の人がすぐ横に居た。
 フードを目深にかぶってて、手には杖。外套はびっしり、不思議な紋様で縁取りされてる。どう見ても、どっかの魔道士ギルドに属してるとか、長年経験積んだ占い師とか、そんな雰囲気だ。
「ちょっとこっちへ来なさい。あなたと、話さなきゃいけないことがあるようだから」
 自分でもワケが分からなくなってたせいか、この人に言われるまま、俺は街道から離れたところまで行く。
「さて、と。ここなら誰も、聴く者もないわ。
――坊やはあの、巫女さまの知り合いね?」
 驚く俺に、女の人が笑った。
「そんなに驚かなくていいわ、この水晶玉が囁いただけ。世の中には不思議なことは、ゴマンとあるのだし。
 さ、坊やも座りなさい」
 野原の中にいくつも転がる大きな石のひとつを、俺に勧める。
「いい子ね。さて坊や、巫女さまをどう思う?」
 とっさに答えられなかった。
「怖い?」
 下を向く。
「怖いでしょうね。でも、それがふつうよ」
「え?」
 驚く俺に、この人は笑って言った。
「人は自分より強いものを、恐れるもの。殺されるかもしれないから、それは当たり前。だから、おかしいことじゃないわ」
 女の人がそこで、一回言葉を切る。
 ふっと、風が通ってった。
「けど坊や、いちばん怖かったのは、いちばん辛かったのは、誰かしら?」
「あ……」
 そんなこと、考えるまでもなかった。それは間違いなくフィアだ。
「行っておあげなさい。あの子、待ってるから。
――そうそう、そのペンダントを貸して」
 言われるまま、俺はずっと持ってた、フィアのペンダントを差し出した。女の人が手をかざして、何か呪を唱える。
「これで、あの子の居場所が分かるはず。さぁ、早く行きなさい」
 俺に返しながら、この人が急かす。
 ペンダントを握るとたしかに、なんとなくフィアのいる方向が分かった。
「ありがとう――え?」
 視線を上げてお礼を言おうとしたときには、女の人の姿はない。
 首をひねりながら歩き出すと、また違う人に呼び止められた。見るからに調理人って格好の、恰幅のいい人だ。
「あんた今、女の人と話してなかったか?」
「ええ。でも急に、いなくなっちゃって」
 俺の答えに、調理人がなんとも言えない表情になる。
「俺は以前城の調理場で、長く働いてたんだが……あの人、ずいぶん昔に亡くなった、太后様だよ」
「え……」
 背中があわ立つ。
 太后さまってたしか、今の王の母親のことだ。その人が、とっくに死んでるのに、俺の前にいたってことは……。
 おじさんが話を続ける。
「もともとは、力のある魔道士だったらしい。城のお抱え占い師になって、よく当たるって評判で、前王のお妃になったんだ。
 亡くなられたあともこの国を心配して、ときどき姿を現すって、もっぱらの噂なんだよ」
「そうなんですか……」
 そんな人がいたのに、なんでこんなことになったのか。
 そもそもなんで、そんな人が俺のとこに出たのか。
 思う俺の背に、風が囁いた。
――あの子もあの人も、昔はあんなじゃなかった。私が、死ななければ。
 声が空に舞い散る。
――巫女の末裔よ、許して。国の者たちよ、許して。
 そして最後に、俺の耳元で。
――行ってあげて、あの子のところへ。
 フィアのペンダントを握り締めて、俺は歩き出した。

◇Fia side
 ここは、どこだろう?
 冷たい地面に身を横たえながら、フィアはそれだけを考えていた。
 東へ、帰りたい。
 あの町へ、あの家へ。
 廃墟と化した王都を後にして、何日過ぎたか分からない。東へ、そう思いながらも人が怖くて街道を行けず、離れたところを歩くうち、道も見失った。
 手をついて身体を起こし、立ち上がろうと足に力を入れる。だが四つん這いになる前に、腕が力を失った。
 ばちゃりと泥のしぶきが上がり、顔と衣装を汚す。
 どこをどう歩いたのだろう? いつの間にかフィアは、どこまでも続く泥地に迷い込んでいた。
 乾いたのどを潤そうと、近くの水たまりに片手を伸ばしてすくい、そっと口に含んで――思わず吐き出す。清流を望んだわけではないが、ぶくぶくと泡の立つ沼地の腐った水は、異臭を放っていて飲めなかった。
 もうずっと食べていない。食べる気にもなれない。
 それがよけい体力の衰えを招いているのは、フィアにも分かっていたが、どうすることも出来なかった。
 ずっと館の中に閉じ込められ、せいぜいが別の館へ送り迎えされるだけだったフィアには、食べられるものが分からない。木の実や草やキノコさえ、探し出せないのだ。
 街道を行けば、もう少しマシかもしれないが、それも出来なかった。
 何もかもが、怖い。
 心変わりする他人と、何より自分自身が怖い。
 また同じことを起こしてしまうのが怖い。
 けっきょく自分でも何がしたいのか分からぬまま、漠然と東を想い続け、ふらふらと歩き続けた。
 だがそれもそろそろ、終わりかもしれない。
 もともと歩くのもおぼつかないほど、弱っていたフィアだ。水も食料もない状態でさまよい歩くのは、無謀以外のなにものでもなかった。
 現にもう、立てない。
 ニールに会えないまま力尽きるのは寂しかったが、これでいいのだ、という気もしていた。それどころかあの路地裏で、ニールに拾われる前に、死んだほうが良かったのかもしれない。
 助けてもらったばかりに、彼に怪我をさせ、王都を消してしまった。災厄を引き起こすだけの自分など、このまま人知れず朽ちていくほうが、いいに決まっている……。
 そして、気づく。
 自分が泣いていることに。
 悲しいわけではない。嬉しいわけでもない。怒っているわけでも、悔しいわけでもなかった。
 広がる虚しさの中、涙だけがこぼれる。
 それがひどく辛くて、自分の中の思い出にすがりついた。
 ニール、姉のイルゼ、ドクター。ほんとうにささやかで、でも暖かい日常。
 ただそれだけで、良かったのに……。
 どこにこれほど残っていたのか、そう思うほどに、涙があふれて止まらなかった。
 なぜあのまま、いられなかったのだろう?
 なぜあのまま、そっとしておいてくれなかったのだろう?
 思いがずっと、そこで巡る。
 そのとき、何かが囁いた気がした。
――彼が、来るわ。
 驚いて視線をさまよわせたが、人の姿も気配もなかった。
 風が頬を撫でる。
――巫女の末裔よ、許して。
 それきり、風は沈黙した。
 代わりに何かが泥の水面を乱す、規則正しい音。
「フィア!」
 いちばん聞きたかった声。
 音の間隔が早くなる。
 身体の向きが変えられる。
 いちばん会いたかった、人。
「ニ、ル……」
 かすれる声で呼ぶ。
「バカヤロ!」
 そう怒鳴られたが、抱きしめられた腕の中は暖かかった。

◇Neal
 フィアの状態は、ヒドいなんてもんじゃなかった。
 どう見たって、最初に拾ってきたときより悪い。食べ物はもちろん、水もほとんど喉を通らなかった。きっと魔法使っても、もうムリだろう。
 それでも何かになればと思って、俺は持ってきてたペンダントを、フィアにかけてやった。癒しの効果があるっていうなら、ちょっとは足しになるはずだ。
 あと……俺自身もヤバい。
 身体が、石でも詰まったみたいに重くてだるい。あと傷の治りきってなかったところが、少しヘンになってて熱を持ってる。
 走竜に乗ってるときからいろいろ少し感じてたけど、降りて歩いてから、一気に来た感じだった。
――姉貴、ゴメン。
 部屋から出たらダメだって、言われただけのことはある。
 ただ、後悔はしてなかった。悪いことをしたとは思ってるけど、それでもフィアに会えたことのほうが、俺的には大きい。
 いま居るのは、崩れそうな廃屋の中だ。フィア見つけた沼地のとなり、小さな森の入り口に建ってた。
 ずっと使われてないらしくて、中も外も荒れ放題だったけど、雨露がしのげるぶんかなり違う。
――これからどうするか。
 それがいちばんの問題だった。
 フィアは、動かせるような状態じゃない。生きてるのが不思議なくらいだ。
 ホントは誰か医者なり、人を呼んでくればいいんだろうけど、それもできそうにない。どこに人が住んでるか分からないし、待たせてる間に、フィアがどうなるか分からない。万が一魔物や野獣にでも見つかったら、その場でエサだろう。
 いろいろ考えてみて、けっきょく俺は、フィアを背負って連れてくことにした。
 明るくなるのを待って、様子を見に、ちょっと外へ出てみる。けど街道は、さすがに見えなかった。でも街道を離れて北へ来たはずだから、まっすぐ南へ進めば、そのうちぶつかるだろう。
 なるべく早く出発したかったから、すぐ切り上げて小屋へ戻る。フィアを早くどうにかしてやりたいし、俺もずっとはたぶんムリだ。
「フィア、ゴメン、移動するけどガマンしてくれな?」
 言うとフィアは目を開けて、かすかにうなずいた。もう声を出すのも、おっくうなんだろう。
 ぐったりしたままのこいつを、どうにか背負って小屋を出る。
 そのとき、風が頬を撫でた。
――こっちへ。
 囁き声に視線をめぐらすと、昨日は気づかなかったけど、小屋の裏手から道が続いてた。
 興味惹かれて、風に誘われるまま歩いてく。
「――泉?」
 ほんの少し行ったところが、泉のある小さな広場になってた。ぽっかりそこだけ上が空いてて、遠く晴れ渡った空が見える。周りは名前も知らない大きな白い花や、もっと小さい花が、数え切れないほど咲いてた。
 ほとりへフィアを降ろして、そっと手を入れて、すくう。久々の澄み切った水は、甘くて美味しかった。
「フィア、飲むか?」
 言いながらこいつの口に、少し水を含ませてやる。でももう飲む力も残ってないみたいで、こぼすだけだった。
 仕方なしに、こんどは持ってた布切れをよくゆすいで、顔や手足を拭いてやる。泥なんかで汚れきってたのが、元通り彫刻みたいにきれいになる。
 ふっと、フィアが目を開けた。
 引き込まれそうなほどに澄んだ瞳。
「だいじょぶか?」
 大丈夫じゃないのなんか分かってるけど、そう訊く。
 フィアがうなずいて、視線だけで、空と周囲を見回した。
「きれ……い、だね……」
「ああ」
 森の中、日の光に花と水面とが照らされる。まるでおとぎ話の中に出てくる、秘密の泉みたいだ。
 でも……ここはおとぎ話の中じゃない。
「ニール、あの、ね……」
「なんだ?」
 苦しいはずなのに、フィアが必死に喋ろうとする。
「来て、くれて……嬉し、かった」
「バカ、当たり前だろ」
 もっとほかに言うことがあるはずなのに、こんな言葉しか出てこない。
「会いたかった、の……」
 こいつの瞳から涙があふれて、何も言えなくなって、抱きしめる。
 あの時みたいに、出てってからいままで何があったか、俺の中に流れ込んでくる。
「ゴメンな、なんも出来なくて」
 それしか言えなかった。
「ううん……」
 フィアが首をふる。
「来て……くれた、から」
 なんでこいつが。
 なんでこんな目に。
 心の底からそう思う。
 フィアの望んだものなんて、なんの変哲もない、ごくごくふつうの生活だったのに。
「ニール」
 フィアが遠い瞳をして、言った。
「好き……」
「俺もだ」
 間髪いれずに思わず答える。
 フィアはほんとうに嬉しそうに微笑んで、動かなくなった。

◇Ilze side
 花の咲き乱れる泉のそば、彼女は墓標に話しかけていた。
「もう、誰もあなたたちに、何もしないから……」
 こんなことがあってたまるか、そう思っている。だが現実には、特にフィアは、死んで初めて平穏を得たと言っていい。
 あまりにも理不尽だった。
 ここを知ったのは、不思議な風が囁いたからだ。王都が数日前に消えたと聞こえてきた頃、イルゼにそれは囁いた。
 あの二人が、と。
 それだけで何故かピンときたイルゼは、渋るドクターに頼み込んで、風を頼りにここまで来たのだ。
 そして見つけたのは――折り重なるように倒れている、ニールとフィアだった。
 何があったのかは、だいたい見当がつく。ともかく二人はふたたび出会い、ここで力尽きたのだろう。
 ふっと、走る風が頬を撫でた。
 気配を感じて辺りを見回す
「え?」
 泉の向こうに、二人の姿がある。どちらも楽しそうだ。
「ニール、フィア!」
 思わず声をかけたが、そのときにはもう姿は消えていた。
 あるいは、最初から目の錯覚だったのか。
 少し考えて、やはり気のせいではない、とイルゼは思った。そう信じたかった。
「また来るから。仲良くね?」
 そんなこと言う必要はないと知りながら、二つの墓標に声をかける。
 楽しげな風が、吹き渡った。

Fin


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◇あとがき◇
長い話を最後まで、本当にありがとうございました。感想等をいただけたらとても嬉しいです。
なお長編連載「ルーフェイア・シリーズ」はしばらく続くと思うので、これからも見にきてくださるとうれしいです。

Web拍手 ←Web拍手です。もし良かったら、よろしくお願いします


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